2024年7月18日掲載(朝日小学生新聞)

「海とさかな」の不思議を学ぼう!
「おいしいサーモン養殖の秘密」とは?

 海やさかなの世界は解明されていないことが多く、日々新たな発見があります。「どうしてだろう」「もっと知りたいな」といった疑問や好奇心が面白い研究テーマを生み、新たな発見につながります。自由研究のテーマ探しや研究の進め方のヒントになるように、3名の講師による「オンライン出張授業」を開催しました。全国から合計56校(5,234名)が参加した出張授業の様子を2回にわけて紹介します。第1回は、「養殖でおいしいサーモンを育てる秘密」についてです。

授業1「おいしいサーモン養殖の秘密」
講師 株式会社ニッスイ 中央研究所 大分海洋研究センター
山下 量平

山下 量平先生

<サーモンは海のさかな? 川のさかな? 知られざる生態に迫る!>

 大好きなお寿司のネタでは、必ずと言っていいほど上位にランクインするサーモン(鮭)。天然魚と養殖魚がいますが、刺身やお寿司など生で食べる場合は養殖魚が多く使われます。

 脂がたっぷりのった、甘みのある養殖サーモンはどのように育てるのか? ニッスイ中央研究所大分海洋研究センターでサーモン養殖にも携わっている山下量平さんが、出張授業で映像も交えながらその秘密を教えてくれました。

 「あまり知られていませんが、実はサーモンには多くの種類が存在します。私たちがお寿司として食べているのは、『サーモントラウト』『サクラマス』『アトランティックサーモン』『ギンザケ』といった種類です。種類によって身の色や味が違うので、それぞれの特徴を調べてみるのも面白いかもしれません」と、山下さん。

●お寿司で食べられているサーモンは②~⑤です。①のシロザケは天然魚として焼魚などで食べられています。

 サーモンの生態は不思議に満ちています。例えば北海道で見られる「シロザケ」は、川で生まれて半年ほど生活した後、海に出てベーリング海やアラスカ湾まで回遊します。3~5年間、海で過ごした後、卵を産むために生まれ育った川に戻っていくというから驚きですよね。

●シロザケは海に出ると北太平洋の遠い海を回遊し、産卵期になると日本に戻ってきます

 現在、日本では50か所以上でサーモンが養殖されており、ニッスイの養殖地は鳥取県、新潟県、岩手県にあります。養殖では、サーモンの生態を踏まえてさまざまな工夫が取り入れられています。

●ニッスイでは、鳥取、新潟、岩手の3か所でサーモンの養殖を行っています。場所によって養殖しているサーモンの種類に違いがあります。

 「私たちの身近にも蛍光で光る物質があります。自分で実験してみると、その仕組みがよくわかるでしょう」と五十嵐さん。試しに、目に見える光よりも波長の短い光(紫外線)を中心として発しているライトを当ててみました。授業では、蛍光漂白剤入りの洗剤やビタミンB2が含まれた栄養ドリンクが、それぞれ青色や黄緑色に発光する様子を実演しました。ほかに、どのようなものが蛍光で光るかを調べると面白い研究のテーマになりそうです。

<栄養たっぷりの餌を与えてたった半年で10倍の体重に!>

 養殖ではまず、サーモンの卵であるイクラを人の手で取り出して受精させます。ここでどのような親魚から採卵するかが、大きくておいしいサーモンを育てるポイントのひとつだといいます。「淡水で育った親魚から採卵することが多かったのですが、生まれた子どもが海の生簀で大きく育つか、育った環境が違うのでわかりませんでした。そこで海水でしっかり大きくなれるサーモンを選んで親魚にする方法を開発したところ、大きく成長できる子どもが生まれやすくなりました」と、山下さんは取り組んできた研究について説明しました。

●天然の鮭は大きくなると海から生まれた川に戻りますが、養殖のサーモンは大きくなると加工や採卵を行います。

 淡水で1年ほど稚魚を育てた後は、体の大きさで選別を行い、いよいよ海に浮かべた生簀に移します。ここで半年ほど栄養たっぷりの餌を与えて体を大きくし、水揚げをして工場で加工します。「生簀に入れる時点での体重は200グラムほどですが、たった半年で10倍近くの2キログラムまで成長します。海が荒れて、船が使えなくても餌が不足しないように、基地から自動的に生簀の給餌機に餌を補給できるシステムを導入しています」(山下さん)

●鳥取県にある養殖地では、約20基の生簀で約100万匹を育てています。生簀から魚を取り上げなくても、カメラで自動的に体重を測定するシステムも導入しています。

<餌や魚種によって身の色が変化>

 魚の加工技術にも、おいしさの秘密が隠されています。ニッスイでは、水揚げしたサーモンに電気で刺激を与え、動けなくしてから一匹ずつ手作業で血抜きを行います。「この方法は『活〆(かつじめ)』といわれ、長時間、鮮度を保つ効果があります」と、山下さんは説明します。

 授業の後半では、『おいしそうなサーモンの色』を鮭の切り身のイラストが印刷された画用紙に塗り絵で表現してもらう時間も設けました。オレンジやピンク、赤などさまざまな色で塗った作品が完成すると、山下さんは「餌や魚種によって身の色は変わります。だからどの作品も正解です! みんなおいしそうに塗れていますね」とコメントしました。

 生態から養殖方法まで、サーモンの不思議をたくさん学び、授業後の質疑応答の時間には、山下さんにたくさんの質問が寄せられました。  授業を通じて、参加者には「サーモンについてもっと知りたい」という思いが生まれたようです。

●鮭やサーモンの身の色は少しずつ違います

<サーモンの不思議 Q&A>

参加者の皆さんから寄せられた質問です。自分の中に生まれた疑問を突き詰めていくと、きっと面白い研究テーマにつながっていくはずです。

Q.サーモンと鮭は違う種類なの?

呼び方が違うだけで、同じサケ科魚類という種類です。生で食べる場合にサーモンと呼ぶことが多いです。

Q.サーモンはどうして海に出るの?

川よりも餌が多く、生存に有利といった理由だと思います。

Q.イクラはどうして真っ赤なの?

身のオレンジ色が卵に移るからです。だから産卵後のサーモンの身の色は、真っ白なんですよ。

Q.養殖地では、魚のフンなどによる海洋汚染はないの?

ニッスイでは、餌の量をしっかりコントロールして、フンや残った餌が環境汚染しない様に配慮しています。定期的に自主的な環境測定も行っています。

Q.サーモンは何を食べるの?

天然のサーモンは、エビに似た甲殻類や小魚を好んで食べます。餌の色によって、サーモンの身の色はピンクやオレンジに変化していきます。

Q.サーモンは絶滅する心配はないの?

海水温の上昇などの影響により北海道の川に戻ってくるサーモンが減っていると指摘されています。持続可能な環境を守っていくために私たちの行動が求められています。


<参加した小学校の感想>

(1)東京都新宿区立 落合第二小学校

 全国の小学生の様子を感じながら、養殖について知ることができた。サーモンの色を塗るのが楽しそうでした。生のサーモンか、焼いた鮭か…?子どもたちは、切り身だとお料理した状態を描いていました。「〇〇小さんは赤っぽいですね」など取り上げてくださって、ありがたかった。

(2)九州文化学園小学校

 日常なじみのあるサーモンだったので興味深く参加することができた。

(3)屋久島町立 神山小学校

 最初にクイズがあり子どもたちが導入から引き込まれていた。

(4)沖縄県石垣市立 伊野田小学校

 食育講話のひとつとして参加しました。いつも食べているお魚に興味関心を持って、楽しく学習することができていたのでよかった。