2022年8月11日 朝日小学生新聞掲載

おいしいブリはどうやって育つの?
身近な疑問が、面白い研究テーマに!

 いつも何気なく食べている魚が、どこでどのように育つのかを調べると、生産者たちの思いや工夫が見えてきます。ブリ養殖の専門家である「ブリ博士」が、おいしく安全・安心なブリを育てるための「秘密」を教えてくれました。全国から合計26校(1,295名)が参加した、第41回海とさかな自由研究・作品コンクールの「オンライン出張授業」のレポート、今回は後編の第2回です。

授業2 「ブリ博士が語る養殖の秘密」
講師 日本水産株式会社 中央研究所大分海洋研究センター 平田 喜郎

講師の平田さん

<おいしい養殖ブリを育てる秘密と工夫とは? ブリの呼び名は100以上!>

刺身や煮物など、生でも火を通してもおいしく、昔から日本人に愛されてきた「ブリ」。日本水産株式会社(以下ニッスイ)中央研究所大分海洋研究センターでブリの養殖を研究する「ブリ博士」の平田喜郎さんが、養殖ブリを育てる工夫を伝える授業を行いました。
 ブリは大きくなるにつれて名前が変わる「出世魚」として知られており、関東では小さい順に「ワカシ」「イナダ」「ワラサ」と呼ばれ、80センチを超えるとブリになります。「地域によっても呼び方は異なり、全国で100種以上の名前があるので、興味のある人は調べてみては? ブリ以外の出世魚について研究しても面白いでしょう」と平田さん。

宮崎県の沖合にあるブリの養殖場(黒瀬水産が運営)。手塩にかけて育てられた「黒瀬ブリ」は、「養殖ブリの最高峰」と評価されています

<おいしい秘密はあの野菜>

 日本では人工的に魚を育てる「養殖」がさかんですが、じつは国内で養殖による生産量が最も多い魚がブリです。ニッスイでは、宮崎県南端の沿岸で、網で囲った生けすを浮かべて養殖しています。養殖場の多くは安全に作業ができる波がおだやかな場所が選ばれますが、ここは波が荒くて流れの速い海域だそうです。どうして、わざわざそんな場所を選んだのでしょうか。「流れがゆるやかな場所は、生けすの下に沈んだフンや食べ残しのエサがたまりやすく、海が汚れてしまうことがあります。それを避けるために、あえて流れの速い場所を選んだのです」と、平田さんは語ります。

縦横それぞれ10メートル、深さ8メートルの一つの生けすで、約5000尾ものブリを育てています

 おいしいブリを育てる秘密の一つが、エサの工夫です。「ここでクイズです」と平田さん。「エサにはある野菜を混ぜていますが、それは何でしょうか?」
 答えは、トウガラシだといいます。「実験を繰り返す中で、トウガラシを含んだエサを食べさせると、おいしさに影響する脂肪の量がちょうど良くなり、身の色も美しくなることがわかりました」
 さらにニッスイでは、家族や祖先のつながりを一覧にした「家系図」のような仕組みをつくり、養殖魚の系統を管理しているそうです。さらに個体を識別できるマイクロチップをすべての親に埋め込み、どの親から生まれたかがわかるようになっています。

<研究に必要な心構え>

 普段、気軽に食べているブリですが、お話を聞くと、さまざまな工夫があって育てられていることがわかります。平田さんは最後に、「最高のブリを養殖するため、20年間にわたって多くの失敗を克服してきました。みなさんも勉強や自由研究で壁にぶつかることがあると思いますが、諦めずに考えぬくこと、さらに周りの人に意見を求めることを心がけると、きっと乗りこえられるはずです」と、困難にめげないことの大切さを語りました。

魚拓を持つ平田さん