8月31日付朝日小学生新聞掲載

海や魚には不思議がいっぱい!
小さな疑問や発見を研究テーマにしよう

「海」や「さかな」の世界は不思議がいっぱいで、小さな疑問や発見が自由研究や創作のテーマにつながります。「海とさかな」自由研究・作品コンクールでは、海やさかなの不思議に気づいてもらうため、3名の講師によるオンライン出張授業を開催しました。全国から合計35校(1479名)が参加した講義の様子を紹介します。

【授業1】  エビ博士の『エビの変身ストーリー』

講師  株式会社ニッスイ中央研究所大分海洋研究センター  渡邊正弥さん

 刺身で食べたり天ぷらやフライにしたり、手軽で万能な人気食材のエビ。そんな身近なエビも、いつもと少し異なる視点で見ると、自由研究のテーマになります。株式会社ニッスイ中央研究所大分海洋研究センターでエビ養殖の研究に取り組む「エビ博士」の渡邊正弥さんが、エビが卵から成体になるまでの驚きの生態について解説する授業を行いました。

 「エビは、ノープリウス、ゾエア、ミシス、ポストラーバという4つのステージを経て大人になります」と渡邊さん。授業では各ステージの姿や状態について学びました。たとえば、卵からふ化したばかりのノープリウスの大きさはわずか0.3ミリ。そこから6回の脱皮を繰り返してゾエアになります。

エビの成長の様子

 ゾエアからミシスに変わる頃にはハサミが出てきて、しだいにエビらしい姿になります。ゾエアは海中に漂う植物プランクトンを食べますが、ミシスの時期から動物プランクトンをエサにします。つまり、植物食から動物食に変わるため、エサをつかまえるハサミが必要になるのです。

 このようにさまざまな変化をみせますが、驚くのは成長の早さです。「ふ化してからたった120日で、スーパーで売られるサイズにまで成長します。数日、目を離すと、すっかり姿が変わってしまうほどです」と渡邊さんは説明します。

 このように調べてみると、エビの生態についてほとんど何も知らなかったことに気づくかもしれません。そんな気持ちを出発点として、「同じ甲殻類のカニはどのように成長するのだろう」などと興味を広げていくと、きっと自分だけの研究テーマが見つかるはずです。

いつも何気なく食べているエビについて、たくさんの発見のある授業でした

【授業2】  さかなの色のひみつ

講師  サイエンスエンターテイナージャパン GEMSセンター特任研究員  五十嵐美樹さん

魚の体の色はじつに色とりどり。「どうしてこんな色なの?」と不思議に思うこともあるでしょう。

 ところが、「私たちが陸上で見ている魚は、海の中で見ると別の色に見えることがあります」と、「サイエンスエンターテイナー」として活動するジャパンGEMSセンター特任研究員の五十嵐美樹さんは語ります。この奇妙な現象は、光の性質が原因で起こります。

 授業ではまず、光の性質を調べるために白熱灯・蛍光灯・LEDの3種の光を分解する実験を行いました。光を分解する働きのある、分光シートを取り付けた装置に光を通すと、それぞれ美しい虹のような状態に変化しました。その中でも白熱灯に最も多くの色が含まれることが観察できました。

白熱灯を使った実験を行う五十嵐さん

 「光に含まれる色はそれぞれ波長の長さが異なります。白熱灯に近い太陽光が海に降り注ぐと、波長が長い赤色から順に水中で吸収されて水深100~200メートル付近は青色だけが届きます」と、五十嵐さん。青色の光だけが届く状態は、青色のセロファン越しに海中を見るのと同じこと。この場所で真っ赤な魚を見ると、さて、何色に見えるでしょうか?

 実験の結果は「黒色」でした。海の深さによっては赤色の魚も黒っぽく見えるのです。不思議そうな表情を浮かべる小学生に対し、五十嵐さんは「魚の色は、敵から見つかりづらくしたり、敵を驚かせたり、いろいろな目的があると考えられているんですよ」と説明。続いて、「自分が魚だとしたら、どのような理由で、どんな色になるといいと思う?」と投げかけると、子どもたちは海の中にすむ魚に思いをめぐらせて、自由な発想で色塗りをする創作活動に取り組みました。

深海では、真っ赤な魚が黒っぽい色に見えます

【授業3】  世界で6個体! 深海魚ヨコヅナイワシの大解剖

深海2500mに住むソコボウズはどんな魚?

講師  東京大学大気海洋研究所 助教  当コンクール審査委員長  猿渡敏郎さん

いまだに謎に満ちた深海の世界。研究が進むにつれて新種も次々に発見されています。東京大学大気海洋研究所助教の猿渡敏郎さんは、最新の研究成果をもとに驚きの深海生物を紹介する授業を行いました。

 海の中で太陽の光が届かず真っ暗な世界が広がる水深200メートル以下は深海と呼ばれます。映像では、日本で最も深い湾である静岡県の駿河湾の水深2500メートルの地点に、エサとしてマグロの頭を付けた深海カメラを沈めました。一体どんな珍しい生き物が寄ってくるのか、ワクワクしますよね。

深海カメラに映った真っ白なソコボウズ

 低学年向けの授業では、謎の多い「ソコボウズ」という深海魚について紹介しました。体長1メートルに達する大型の深海魚で、10匹以上も映ったそうです。ベージュの個体のほかにブチ模様のある個体が2匹現れ、ブッチ一号、二号と名前を付けました。

 高学年向けの授業では、希少な深海魚のヨコヅナイワシについて学びました。実はヨコヅナイワシは2021年1月に新種として認められた希少な深海魚。授業では、ヨコヅナイワシを解剖する様子も紹介され、深海魚も肝臓や心臓、胃腸など、人間と同じ内臓を持つことなどが説明されました。

 授業に参加した小学生からは、「深海魚は世界に何種類いるの?」など様々な質問が寄せられました。個性的な生き物がたくさん生息して、私たちの好奇心や想像力をかき立てる深海の世界は、まさに自由研究のテーマの宝庫といえそうです。

ヨコヅナイワシの解剖

授業に参加した小学校の先生の感想

⚫︎兵庫県明石市立二見小学校

 オンラインで気軽に素晴らしい講師の先生方のお話を聞けて、子どもたちにとって価値のある授業だったと思います。難しいかと思う内容もありましたが、どこかでまた見聞きした時に、「あっ、知ってる!」と思い出してくれると嬉しいなと思います。

⚫︎宮崎県宮崎市立内海小学校

 大変興味深いものでしたが、小規模校の本校児童にとっては、大学の先生方の授業を受けたり、他校の児童の様子を知ることも大変意義深いものとなりました。貴重な経験をさせていただき、本当にありがとうございました。

⚫︎長野県上田市立神川小学校

 2回にわたり、参加させていただきました。本校には、教室へ行くことに抵抗がある子どもたちが利用する相談室がありますが、相談室のような形態でも参加を承諾していただけたことに感謝です。また海なし県の長野県で、海の魚について知識を深められるオンラインの形の取り組みはありがたかったです。